「恐怖症」と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは「高所恐怖症」や「閉所恐怖症」など、世間でよく耳にする「恐怖症」ですよね。
しかし、実際は「ボタン恐怖症」という、一見些細に思えるが、症状によってては、生活に深刻な影響を及ぼす恐怖症も存在します。
この記事では、ボタン恐怖症の具体的な症状、原因、そしてその対処法について検証します。
ボタン恐怖症は一般的な恐怖症と同様に、その原因は多岐にわたり、一概には説明できません。
しかし、その症状が日常生活に与える影響は決して軽視できるものではありません。
この記事を通して、ボタン恐怖症についての理解を深め、もし自分自身や身近な人がこの恐怖症に悩んでいる場合は、対処法を考えてみましょう。
ボタン恐怖症とは何か?基本的な理解を深めよう!
「ボタン恐怖症(Koumpounophobia/コウムポウノフォビア)」は一般的にはあまり知られていないと思われます。
けれども、この記事を書くにあたり、徹底的に調べてみたところ、この症状で悩んでいる人は結構な数いらっしゃいました。
ボタン恐怖症とは?
ボタン恐怖症は、ボタンに対する極度の恐怖や嫌悪感を持つ状態です。
洋服に「ゴキブリのはく製のブローチをつけているようなものだ」と表現する声もありました。
ただし「あまり好きではない」程度の生活にまったく支障のないレベルから、「道端に落ちているのを見ただけで吐きそうになる」というレベルの人まで、その症状にはかなりの濃淡があるようです。
この恐怖症は、①ボタンがついた衣服を着ること、②ボタンを触ること、さらには③他人の洋服に付いたボタンを見ることすら避けたくなるほど強い場合があります。
④「ボタン」という単語を見聞きしただけでも不快になる人もいました。
ちなみに、ボタン恐怖症同様レアな恐怖症には「衣服恐怖症」があります。
衣服恐怖症は衣服(特定の色や素材、デザイン)に対する恐怖ですが、ボタン恐怖症は「ボタン」のみに特化した恐怖です。
ボタン恐怖症の社会的認知度
質問サイト(Yahoo知恵袋など)やテレビ番組などで取り上げられることもあり、認知度は徐々に高まっているようです。
個人のブログやSNSでも自分の症状や体験、解決案を公開してくれている人もたくさんいました。
英語版Wikipediaによると、2009年、人気作家ニール・ゲイマンは、自身の中編小説に基づいた映画「コララインとボタンの魔女」の先行予告編で、「目がボタンになっているキャラクターが登場する」と、ボタン恐怖症の当事者へ注意を促したそうです。
ボタン恐怖症の発症率
英語版Wikipediaには、「アメリカでのボタン恐怖症の発症率は1%未満である」との記載があります。
一方、イギリスの国立恐怖症協会によると、ボタン恐怖症に悩む人は75,000人に1人とのことです。(参照元:gigazine)
アメリカの人口は現在約3.3億人なので、1%未満といえば、だいたい300万人くらいのイメージですよね。
1%弱なら自分の周りに1人や2人いてもおかしくない確率ですが、75,000人に1人だと相当レアな恐怖症ということになります。
ボタン恐怖症の症状の出方にはかなりの差があり、重度な場合でも受診したり心理カウンセリングまで受ける人は少ないと思うので、正確な発症率を算出するのは無理なのでしょう。
一般的には成人人口の約10%が何らかの恐怖症を持っているとされていますが、ボタン恐怖症に特定したデータは不明です。
これは、子どもの時の戦隊ヒーローショーで怖くなって泣いた記憶が関係していると思われます。
ボタン恐怖症の症状
当事者間の症状の差が激しい
繰り返しになりますが、ボタン恐怖症の症状の程度はさまざまです。
ネットを中心に調査したところ、「犬が苦手」「ヘビが苦手」のような「苦手レベル」から生活に支障が出るレベルまでさまざまでした。
- 地面に落ちているボタンや洋服から取れそうになってるボタンのみ不快
- プラスティックなど特定の素材のみ不快(ウッドボタンは平気)
- 4つ穴があるものが苦手(クルミボタンやスナップボタンは平気)
- スペアのボタンは通常ビニール袋に入っているので問題なし
- (パチンと留める)スナップボタンもダメ
- エレベーターのボタンもダメ
- ボタンという言葉を聞いたり、文字を見るのも苦手
- 特定の素材のボタンの触り心地を嫌悪
- 大きなボタンまたは小さなボタンのみを嫌悪
- 同席の人がボタンの付きの服を着ているだけで、食べ物が喉を通らない
- スーツの着用が無理
- ネットの画像検索で突然ボタンの画像が出てくると思わず叫んでしまう
- ボタンに触れた後は、必ず石鹸で手を洗う
- 男性会社員のたくさん乗車している通勤電車は無理
- 家族全員にボタンのない服を着用してもらっている
- 部屋にボタンが落ちていると、家族に何枚も重ねたティッシュで丸めて捨ててもらう(虫嫌い人の虫の死骸への対応と同じ)
- ボタンを見るだけでも嘔吐
おそらくボタンが地面に落ちている確率は、ハイキングに行って蛇と遭遇する確率と同じくらいなので、生活に支障はなさそうですね。
具体的な症状
ボタン恐怖症の症状は人それぞれですが、ボタンを見るとゴキブリを見た時と同じような嫌悪感を感じる人が多いようです。
ボタンを見ると吐き気がする、制服でもボタンがついた服を着ることができない、ボタンに触れるとパニックになるなど、症状は人それぞれです。
症状の重い例
- 不自然な行動をとる(ボタンのついた服を着ている人を露骨に避けるなど)
- 吐き気
- 極度の不安やパニック
- 心拍数の上昇
- 汗をかく
ボタン恐怖症の身体的な症状は、吐き気、発汗、動悸(どうき:心臓が速くなること)など、一般的な恐怖症と同様です。
ボタンの形状や素材、大きさによって恐怖の度合いが変わるという人も多いようです。
「ボタン恐怖症」の当事者さんが困っていること
「ボタン恐怖症」当事者さんたちが実際に困っていることと、困っているのではないかと想像できることを集めてみました。
もちろん、比較的症状の重い当事者の事例です。
日常生活での制限
- 洋服選びに制限がかかる(ボタンがついている服を避ける)
- 洋服選びが苦痛になる
- 制服、男性のスーツやフォーマルなど、ボタン付きの服が必要な場面で困る
社会生活への影響
- 就職活動やビジネスシーンでの服装に制限が出る
- 子どもに制服を着せる際に困る(幼稚園や保育園)
- 子どもの技術家庭や図画工作、美術の授業には配慮が必要だと学校に伝える必要がある
- 友人や恋人と出かける際、相手の服装に注文をつけなければならない
- ボタンの目立つ服を着ている人が目の前にいる場合、テンションが下がる
- ボタンの目立つ服を着ている人への評価がどうしても下がってしまう
感情的なストレス
- ボタンに触れることで強い恐怖や嫌悪感を感じる
- ボタンが目に入るだけで不快感や緊張感が高まる
人間関係への影響
- 他人に理解されにくいため、孤立する可能性がある
- パートナーや家族にも理解されにくく、協力や支援を受けにくい
治療へのアクセス
- 専門の治療機関が少なく、情報も少ない
- 認知行動療法(CBT)などの治療費が高い場合がある
その他の困りごと
- オンラインショッピングで商品の詳細が不明瞭な場合、ボタンの有無がわからず購入をためらう
- ボタンがついているもの(例:エレベーター、家電製品)にも嫌悪感を感じる場合がある
ボタン恐怖症の原因は生理的要因と心理的要因
「集合体恐怖症」または「幼少期のトラウマ」が原因の可能性が大
この恐怖症の原因は明確ではありませんが、主に2つの要因が考えられます。
- 生理的要因(集合体恐怖症/トライポフォビア)
- 心理的要因(幼少期のトラウマ)
親子揃ってボタン恐怖症だという例もあるようですが、「親がボタンを嫌がるから、子どももボタンは避けるべきものだと思い込む」ケースも想定できるので、遺伝的要因についてはわかりません。
ただし、同じ恐怖症でも、対人恐怖症等の場合は、遺伝も要因になることが研究結果として示されているそうです。(参照元:大阪クリニック)
ちなみに「集合体恐怖症」とは、ハチの巣やレンコンの穴、空から撮影された群衆の映像など、複数の小さな穴や点の集合体に嫌悪感を感じる恐怖症です。
くるみボタンやスナップボタンは問題ないけれど、穴が4つあるボタンのみに嫌悪感を感じる場合や、物心ついたときからすでにボタンに恐怖を感じていた場合は、集合体恐怖症の可能性が高いですね。
また、ボタンが幼少期のトラウマや特定の出来事を思い出すトリガーになっているケースも考えられます。
「ボタン恐怖症」発症の原因となる過去のトラウマや出来事
視覚的トラウマ
子どもの頃に服が破れてボタンが飛び出る、またはボタンが外れて失くなるといった出来事を体験、目撃することで、ボタンに対する恐怖心が芽生えることがあります。
ボタンと「喧嘩や虐待」などの記憶が直接結びついているケースですね。
このような視覚的なトラウマは、後にボタン恐怖症を引き起こす可能性があります。
虐待については、一般的な恐怖症の原因から推測した原因であり、私が調べた限りでは、幼少期の虐待と自分のボタン恐怖症を結び付けている当事者さんは見当たりませんでした。
過去の失敗体験
幼少時にボタンをうまく留められなかった、またはボタンが外れて恥ずかしい思いをした苦い経験があると、その記憶がトラウマとなり、ボタン恐怖症を引き起こす可能性があります。
子どもの頃、友達や自分がボタンを飲み込んでしまい、大騒ぎになった出来事がボタン恐怖症の原因だと分析している当事者さんもいました。
過去のネガティブな体験
子どもの頃、友だちのボタンに食べこぼしが付着しているのを見て、ボタン自体に嫌悪感を持ち始めたという事例がありました。
他人からの影響
家族や友だち、先生などがボタンに対して過度な感情を示すことで、その恐怖心が伝染してしまう場合があります。
精神的ストレス
精神的なストレスやプレッシャーが高まると、それが特定の対象物、この場合はボタンに対する恐怖心として現れることがあります。
ストレスやプレッシャーが原因であれば、それらを軽減、解消することで恐怖症も改善される可能性があります。
ボタン恐怖症の有名人:スティーブ・ジョブズ氏の事例
Appleの共同創設者である故・スティーブ・ジョブズさんは、生前、自分がボタン恐怖症であることを公言していました。(参照元:英語版Wikipedia)
ジョブズさんのボタン恐怖症が、Appleデバイスの設計におけるタッチスクリーンや仮想キーボードへのトレンドに影響を与えたのではないかと考えている人もいるようです。
https://twitter.com/GyyARm5pyYHddh0/status/1702566332649324589
たしかに、彼がボタン付きのシャツやジャケットを着用している姿は残されていません。
スティーブジョブズのファッションといえば、イッセイミヤケの黒のタートルネックにニューバランスのグレーのスニーカー、リーバイスの501ですね。
リーバイスの501は、一般的なデニムよりボタンの数が多いように思えますが、彼の場合は、内側に付いているボタンに関してはOKのようですね。
ボタン恐怖症の改善方法
日常生活に支障をが出ている場合は、医療機関の受診やプロのカウンセリングをお勧めします。
認知行動療法(心の働きや行動を改善する治療法)の活用
認知行動療法(CBT)は、ボタン恐怖症の治療に有効だとされています。具体的には、ボタンを想像することから始め、次に視覚接触、最後に触覚接触というステップを踏みます。
ボタンは危険な物でも不潔なものでもないことを、自分の力で徐々に理解していきます。
専門のカウンセリングや療法で、恐怖の根本原因を解明し、対処法を学ぶことが推奨されます。
暴露療法(Exposure Therapy)
「暴露療法(Exposure Therapy)」と呼ばれ、恐怖症や不安障害の治療でよく用いられます。恐怖の対象に何度も触れることで、その恐怖が徐々に減少するという理論に基づいています。
暴露療法は一定の効果が期待できる治療法ですが、注意点もたくさんあります。自己判断で行うよりも、専門家の指導のもとで行う方が安全で効果的です。
探偵ナイトスクープで「催眠療法」によるボタン恐怖症の治療を紹介
2011年4月1日放送の探偵ナイトスクープ(朝日放送テレビ)は、「ボタン恐怖症の主婦を専門医が催眠療法で治療する」といった内容でした。
YouTube動画には残されていませんが、ヤフー知恵袋に詳しいベストアンサーがあったので、気になる方は参照してください。(参照元:ヤフー知恵袋)
- 依頼者はボタン恐怖症の和歌山県の主婦
- 3歳の息子が保育園の年少になり、ボタン付きの制服を着せる必要が出てきたので困っている
- 主婦はボタンをゴキブリのように感じ、特に服から取れかけているボタンが嫌い。ゴキブリかボタンかを選ばなければならない場合は、ゴキブリの方を選ぶほどだ
- ここで同じ悩みを持つ依頼者が登場
- スナップボタンや金属製のボタンは大丈夫で、もう一人の依頼者も同様
- ボタン克服作戦1:好きなお菓子で慣れさせようとしたが失敗(マーブルチョコやグミをボタンにしてみた)服に付けると途端にNG
- ボタン克服作戦2(ショック療法):「ボタンマン」に息子を誘拐される。息子が泣き叫んだだけで失敗。
- ボタン克服作戦3:山手心理相談室の足立先生が催眠療法を用い、ついに成功。
- しかし、息子の方がボタン恐怖症になってしまった。
ボタン嫌いな自分とうまく付き合う方法
心理カウンセラーや医師の治療を受けるほどではないけれど、ボタンが苦手だという方もいらっしゃるでしょう。むしろそちらの方が多そうですよね。
服装の工夫
- ボタンのない服を選ぶ:ボタンがついていないTシャツやプルオーバーを選びましょう。
- ジッパーやマジックテープを活用:ボタンの代わりにジッパーやマジックテープが使われている服を選んだりリメイクすることで、ボタンに触れる機会を減らせます。
環境調整
- 食事の際の工夫:外食の際は、他人のボタンが目に入らない場所に座るようにしましょう。
- 自宅での対策:自宅では、ボタンが目に入らないように収納するなど、家族の協力を得て環境を整えます。
メンタルケア
- 深呼吸や瞑想:ボタンに対する恐怖を感じたときは、深呼吸や瞑想(心を落ち着かせる技術)で心を落ち着かせましょう。
- ポジティブなイメージの活用:ボタンに対する恐怖が高まったときに、好きなものや楽しい思い出を思い浮かべることで、気を紛らわせます。
情報収集と共有
- 同じ恐怖症を持つ人とのコミュニケーション:オンラインフォーラムやSNSで、同じ恐怖症を持つ人たちと情報交換をすることで、新しい対処法を知ることができます。
- 家族や友人への説明:周囲の人に恐怖症について説明することで、理解を得られる場合があります。
専門家のアドバイスを求める
必要に応じて、心理カウンセラーやセラピストのアドバイスを受けることも考えましょう。
恐怖症とうまく付き合うためには、自分自身の感情や反応を十分理解し、それに適切に対処していくことが重要です。
上記の方法は一例ですので、自分に合った方法を見つけることが大切です。
ボタン恐怖症に関するQ&A
Q1: ボタン恐怖症とは何ですか?
A1: ボタン恐怖症(Koumpounophobia)は、ボタンに対する過度な恐怖や不安を指します。この恐怖症は、衣服のボタンや装飾品に使われているボタンに対して感じられます。
Q2: ボタン恐怖症の一般的な症状は?
A2: 症状は人それぞれですが、ボタンを見ると吐き気を感じたり、汗をかいたり、心拍数が上がるなどの身体的反応があります。
Q3: ボタン恐怖症の原因は何ですか?
A3: 原因は明確ではありませんが、幼少期のトラウマや特定の出来事が影響している場合があります。例えば、ボタンを飲み込んでしまった経験や、ボタンに不潔なものがついていたのを見たという体験が原因である場合もあります。
Q4: ボタン恐怖症は治療できますか?
A4: 認知行動療法(CBT)や暴露療法、催眠療法などの心理療法が一般的に用いられます。
Q5: ボタン恐怖症の人が日常生活で気をつけるべきことは?
A5: ボタンがついていない衣服を選ぶ、ボタンの代わりにジッパーやマジックテープを使用するなど、日常生活での工夫が求められます。また、症状が出た場合の対処法を事前に考えておくとよいでしょう。
「ボタン恐怖症」は珍しくない!生活に支障があれば、積極的な受診を!
この記事では、ボタン恐怖症という特異ながらも深刻な恐怖症について、その症状、原因、対処法を詳しく解説しました。
ケースバイケースですが、場合によっては、この恐怖症がもたらす日常生活への影響は決して小さくありません。
この記事が、ボタン恐怖症に対する理解を一歩進めるきっかけになれば幸いです。恐怖症は誰にでも発生する可能性があり、周囲の理解と協力が求められます。
最後に、自分自身や周囲の人が何らかの恐怖症で悩んでいる場合、専門の医療機関での診断と治療も視野に入れてください。